Q&A:展覧会での工夫

日本刀展覧会に関するQ&A

「見どころ学べる!目で観る刀の教科書展 ― 噂の刀展Ⅴ ―」

世界遺産-薬師寺にて開催

【2024/8/2更新】

Q1.大俱利伽羅広光の帽子、刃側に白い点に見える所が数ヶ所、黒く少し光るところが1ヶ所ありました。刃が欠けているかのようにも見えましたが何なんでしょうか?前回の倶利迦羅不動寺や大崎市での展覧会の際はありませんでした。

A1.

結論から言いますと、塵(ちり)、埃(ほこり)状のゴミでした。撤収作業時確認の上除去しました。
白いものはセルロースでしたので、紙又は布(綿)、形状からティッシュペーパーからでた埃と思われます。
黒いものはポリアクリル酸系ポリマー(プラスチック)で、黒色物はカーボン(炭素)でしたので黒色の塗料が剥(は)がれたものと推定されます。

Q2.なぜゴミ、埃(ほこり)のようなものが付着したのですか?

A2.

数回行ったガラスケース内の換気時に、静電気等により付着したようです。

Q3.なぜ数回も換気を行ったのですか?

A3.

湿度を調整するためです。刀身は湿度が低い方が錆(さび)の発生を防ぐことができます。しかし、拵(こしらえ)は乾燥しすぎると鞘(さや)が割れたり、漆(うるし)が浮いたり、剝(は)がれたりします。吸湿の度合いにより、木、のり(接着剤)や膠(にかわ)、漆、金・銀箔の収縮、膨張率が異なるために起こる現象です。
材質を確かめて、刀身と拵の両方に良い湿度(温度とのバランスも)を調整したものです。

Q4.他の拵(こしらえ)と共に展示してあったケースの湿度が、他の刀身だけのケースより高かったのはそのためですか?

A4.

基本的にはその通りです。

【2024/8/5更新】

Q5.湿度の調節はどうされていますか?

A5.

以下の方法で調整しています。

1.

外気が入らないよう密封すること

2.

水分及び酸性物質吸収剤が基本です。保存技術として必要に応じて窒素(N2)ガスやアルゴンガス置換なども行い、水分と酸素濃度を低くします。

Q6.湿度以外に行っている空気の対策はありますか?

A6.

状況により適宜、様々な対策を行っています。一部の例として、酸性ガス吸収、中和防錆技術などがあります。

Q7.刀掛けにかけてある白い布は普通の布ですか?

A7.

刀剣の展示用に、防錆処理を(株)ブレストシーブが行った特殊な布です。
展示期間に合わせて防錆力を調整するとともに、ケース内の空気に含まれる酸性ガスの吸収にも関与しています。
茎(なかご)や刀身に触れても影響が出ないための工夫や技術が使われています。

Q8.なぜそのような工夫をするのですか?

A8.

日本刀は日本で誕生し、美的にも技術的にも高い文化遺産であり、世界に誇るべきものです。次世代へ無傷でこの文化遺産を継承していくのが、現代を生きる者の務めと考えています。このため、少ない作業時間しかとることができない場合でも出来るだけの対策をして刀の展示をすることにしております。
日本刀の魅力を多くの皆様に伝えていけるよう努力をしてまいります。

【2024/8/17更新】

Q9.昨年の宮城県大崎市、石川県俱利迦羅不動寺、今回の奈良県薬師寺の展示で微妙に沸(にえ)の見え方が違うように思います。どうしてこのような差がでるのでしょうか?ライトのセッティングなどが関係するのでしょうか?

A9-1.

ライトとガラスの性質の差もありますので、体験によってガラス面を通さず見た場合とは差が出ます。

A9-2.

使用するライトの波長によっても見え方が異なります。
ノーマルタングステン球、キセノンライト、クリプトン球、蛍光灯の種類、LEDの性質、フィルターの性質により見え方は大きく異なります。

A9-3.

防錆特殊被膜形成オイルの種類、除去方法と精度により大きく見え方が変わります。
3会場それぞれ仕様の異なる(成分が違う)オイルを使用しており、一定期間展示してもマイクロ、ナノレベルの錆の発生も起こさない工夫をしております。
打粉で99.9%とれるのですが、あえて0.1%程度は残すようにしています。
この0.1%の被膜がナノレベルで錆を防止することに貢献しています。

Q10.次回の展示では、また見え方が変わるのでしょうか?

A10-1.

変わると思います。新開発のコーティング技術を使ったオイルになります。
今まで以上に地沸が際立ち、皆焼(ひたつら)が煌(きら)びやかに見えるようになると思います。
反対に二匹の龍は、穏やかに見えるものと思います。
しかしセッティングによってニュアンスが異なりますので、断言は出来かねます。

A10-2.

薬師寺とはガラスケース等の性質が異なる場合、ライティング、コーティングなど複雑なコントロールを要します。
従来以上に映える展示にチャレンジしていきたいと思います。